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きょう聖(ねこミミ)

きょう聖(ねこミミ)

【小説】ねこミミ☆ガンダム 第6話 その2

第2回戦の競技は〈玉入れ〉だ。
司会がいった。
「さあ、気を取り直して、はじまりました! 第2回戦の玉入れ! まずは、7体のマシンドールによる予選が行われます。良くも悪くも注目されるシロネコと山本選手! 今回はどのような活躍が見られるでしょう! 解説のキャッツさん!!」
解説のキャッツがいった。
「そうですね。地球の辺境に位置するこの島の原住民は、ほかの原住民に比べて体がやたら小さい分、手先だけは器用であると聞きます! 手先の器用さが問われるマシンドール玉入れで、その特性がどのように発揮されるのか! 注目です!!」
シロネコを取り囲むの対戦相手は、すべて巨体のマシンドール〈ニャ・O〉だ。
特別席から見下ろしながら女王がいった。
「10本の腕を持つニャ・Oにシロネコは勝てるかな?」
英代はいった。
「シロネコは手先も器用なんだから!」
――ドヒューンッ!!
ビームライフルの光が空にのぼった。
大歓声が耳を圧する。
6体のニャ・Oは、いっせいに背中のパーツを展開。10本の腕を伸ばした。
それぞれのマシンドールのとなりにはポールが立ち、その上にカゴがある。このカゴに最も多く玉を入れたものが決勝戦に進む。
シロネコはしゃがみ込むと、すばやく玉に手を伸ばした。
玉の大きさはバレーボールほどだ。が、これはマシンドールにとって、まめ粒ほどしかない。
シロネコは玉をつまみ上げた。玉はグミのように形を変え、指の間からするりとこぼれ落ちた。
「んっ!?」
もう1度つまんだ。玉はいびつな形になるだけで取れなかった。
「なにこれぇっ!?」
特別席の女王が立ち上がり、マイクを手にいった。
「言い忘れていたが、玉は〈マシュマロのようなもの〉でできている」
「マシュマロ!?」
「のようなもの、だ」
英代は対戦相手のニャ・Oを見た。それぞれの指先に玉が貼りついている。指を近づけるだけで玉が近づいた。掃除機のように吸い込んでいるのだ。
ニャ・Oは指先についた玉をカゴに向かって放り投げた。数十個もの玉が一度に入った。
英代は、「ず、するい!!」
女王は、「ずるくはない。ニャ・Oは50本の指の器用さを活かすために、もともとこのようなつくりなのだ」
シロネコは地面の玉をなんとか拾い上げた。プルプルと震える玉がこぼれ落ちる。と、玉を手ですくい取った。
狙いを定め、カゴに投げる。
ひとつの玉が入った。
――ドヒューン! ドヒューン! ドヒューン!!
3本のビームライフルの光が空にのぼった。
2回戦の玉入れが終わった。
結果は、もちろん負け。
シロネコは予選で敗退した。

対戦相手がぞろぞろと引きあげる。シロネコは取り残された。
コックピットで英代は空をあおいだ。空の青さは、さっきまでとはちがう色に見える。
グラウンドの女王がマイクを手にいった。
「邪魔だ! どけっ!!」
シロネコの英代はいった。
「あの……。話があるのですが……」
「手短にしろ」
英代は、ワイヤーロープを使って地面に降りた。
「もう1回、やりませんか?」
「なにを?」
「玉入れを……」
女王は、頭上のミミに指をずぼっと突っ込んだ。思いのほか深く入れてもいいらしい。
ミミをほじくりながら女王はたずねた。
「なぜ?」
「対戦相手の指に玉がくっつくなんて、夢にも思わなかった……」
「ふ〜ん……」
「ただでさえ、腕がたくさんあってずるいのに……」
女王は、指先のホコリを吹き払った。
「……わかってたら? 勝てた?」
「勝てたと思う……」
女王は声をあげた。「バカじゃないの!!」
英代は言い返した。「え、バ、バカ!? それはさすがに言いすぎっていうか、私もキレるっていうかっ……!!」
「うるさい! お前のせいで進行がメチャクチャ押してるのだ! 今すぐどけっ!!」
「ああ、本気でやれば勝てたのに! 対戦相手があらかじめわかってたら、本気でやって勝てたのに!!」
「ウソつけ! シロネコで勝てるわけあるか! 性能差で勝負が決まるのがマシンドール運動会だ! いやならシロネコから降りるのだな!!」
「うっ……!!」
「ニャ・Oに乗るか!? くれてやるぞ!!」
女王が右手を上げた。と、スタジアム中の観衆がいっせいに英代を笑った。
――ハッハッハッ……!!
スタジアム中がゆっくりと揺れているように感じた。
「ぐぬぬぬぬぬっ!!」
英代は、女王の髪を引っ張り回したくなる気持ちを抑えた。今、手を出せば今度こそ逮捕拘留される。それでは負けなのだ。
英代は頭を下げた。
「お願いします! もう1度だけ、やらせてくださいっ……!!」
「……」
「今度こそ……、もっといい成績が出せるんで……!!」
女王がゆっくりと口を開いた。「私も鬼ではない……。貴様に1度だけチャンスをやろう」
「チャンス!?」
「再戦の条件として3つの選択肢をやる。その中から好きなものを選ぶがいい」
女王は、家臣が差し出したフリップを持った。
フリップには、

1、ポチ(均)をゆずる
2、シロネコを返す
3、土下座する

とあった。
「どれか1つの条件をのめば再戦させてやる」
《また土下座……?》英代は思った。
「うーん、サービスしすぎたか。特に3番目の土下座なんて失うものは何もないからな。世間体くらい?」
家臣がこたえた。
「女王さまはお優しすぎるのです」
「再試合……」
英代は腰を折り曲げた。「お願いします!!」
女王はいった。「土下座は?」
「あの……、ちょっと……、地面だと汚れるから……。このジャージ、買ったばかりで、お母さんに洗濯してもらうのにも悪いし……」
女王は、家臣の持つ古そうな毛布を足元に放り投げた。
「これ、私が0歳の時から使っていた毛布。地面に敷いていいぞ。もうボロボロだから」
「いや、そんな大切なもの逆に使えないっていうか……。なぜ、こんなものを……?」
家臣が女王にミミ打ちした。「女王さま、そろそろ……」
「うむ、そうだな。この話はなかったことにしよう。進めるぞ。時間がないからな」
「再試合してください!!」英代は腰を折り曲げた。
「……」
「……」
女王はいった。
「土下座がないようだが」
「土下座って……?」
「頭をついてお願いすることだろ。さっきも言ったぞ!バカかっ!?」
英代は首をかしげ、目の焦点を合わさずに、わかってないふりをした。
と、女王が左手をサッと上げた。
すぐさま、ミミのついたヘルメットをかぶった武装兵士たちが走りより、大型ライフルをかまえて英代を取り囲んだ。
女王はいった。「15秒で答えなければ逮捕拘留する」
「くっ……!!」
英代はひざを折り曲げた。地面に手をついた。
女王と家臣らが見下ろす。
英代は、地面でぐるりと体をひねって、ブリッヂをした。
「この通りです! お願いしますっ!!」
弓なりにそった腹が空を向いた。ジャージの間から、ちらりとヘソがのぞいた。
英代は、頭頂部を地面につけた。
「頭ついてるよ! はいっ!!」
「フフッ……!」
女王は、かすかに息を漏らし、顔をそむけた。おもむろに向き直るといった。
「仕方ない。再試合してやろう――」
予選の再試合が決まった。

特別席にもどった女王に家臣がいった。
「よろしかったので?」
女王「せっかくの無駄なあがき、見てやろうと思ってな」
「しかし、あの山本英代です。なにをしてくるか……」
「なにをしてもニャ・Oには勝てん。同じ恥をかきたいというのなら、かかせてやろうではないか」
家臣は頭を下げた。
「敵に対しても、その寛容さ。さすがは女王さまです」

関係者席で夏恵來はつぶやいた。
「あんなこと言って、勝てるのかな……」
ニアがこたえた。
「先ほどの試合を見ている限りでは……。あらかじめ機体をカスタマイズできていたら勝機もあったのですが」
「まぁた、変なことするつもりじゃ……」
「そちらのほうが心配ですね」

ビームライフルの光が空に伸びた。
司会者が叫んだ。
「さあっ! 前代未聞の連続再試合! すでに大会の進行は2時間も押している! どうなってしまうのかっー!!」
解説者がいった。
「山本選手が何の考えなしに再戦を挑むとは考えにくいですね! 何をしかけるつもりか、注目しましょう!!」
玉入れの再試合がはじまった。
対戦相手の6体のニャ・Oは、それぞれがすばやく背中の腕を展開。10本の腕を伸ばした。
ニャ・Oは、落ちている玉を指先で吸い集めていった。
シロネコも地面の玉をつまんだ。
ぷにゅっ――マシュマロのような玉は形を変えるだけで取ることもできない。
指先に数十個もの玉をくっつけたニャ・Oが立ち上がり、カゴを見上げた。
と、その背後にシロネコが近づいた。
ニャ・Oが振り向いた。
その顔面に、シロネコは目にもとまらない速さで拳を叩きつけた。
高速正拳突き。
破壊音とともにニャ・Oは吹き飛んだ。巨体が地面に叩きつけられた。
衝撃に気づいたまわりのニャ・Oがシロネコに向き直った。それぞれが玉を捨て、威嚇するように腕を広げる。
と、1体のニャ・Oがシロネコに向かって飛び出した。
シロネコは身がまえる。
ふいに、シロネコの背後から機械の太い腕が伸びた。
背後から近づいていたニャ・Oが、シロネコを羽交い締めにした。
10本の腕に捕まったシロネコはすぐには動けない。
そこに前から迫るニャ・Oが腕を伸ばした。
シロネコは、羽交い締めにされたまま右足を蹴り上げた。刃物のような蹴りが、前のニャ・Oに命中。
頭を蹴り飛ばされたニャ・Oは、ふらついて倒れた。
シロネコは、羽交い締めにしてくる背後のニャ・Oから、強引に腕を引き抜いた。ニャ・Oの頭部に肘を叩きつける。5回、10回。
ニャ・Oは、頭をぺしゃんこにされて背中か倒れた。
1体のニャ・Oがたじろいで足を引いた。
シロネコはすぐさま突進する。タックルでニャ・Oを倒し、馬乗りになった。ハンマーで釘でも叩くように拳を叩きつける。
ニャ・Oは動かなくなった。
シロネコが立ち上がると同時に、1体のニャ・Oが正面から向かってきた。
ニャ・Oの突きをかいくぐり、シロネコはカウンターで拳を放つ。
一撃で頭部を吹き飛ばされたニャ・O。首から地面に滑り込んで動かなくなった。
残った1体のニャ・Oが10本の腕を上げて逃げ出した。
シロネコはすばやく近づき、ニャ・Oの背中を蹴り飛ばす。倒れたニャ・Oに覆いかぶさると、その頭部をヘッドロックで固めた。
ニャ・Oは、シロネコの腕をしきりに叩き、降参の意を示す。
激しい破壊音がして、ニャ・Oの顔が踏まれたカエルのようにつぶれた。ニャ・Oはグッタリとして動かなくなった。
グラウンドには頭部を破壊され、動かなくなった6体のニャ・Oが横たわった。まさに戦場のそれだ。
スタジアムが静まり返った。
――ピーッ!!
と、ふいにホイッスルの音が鳴りひびいた。
女王がマイクを手にいっった。
「シロネコ、失格!!」
あと、「次やったら今度こそ逮捕拘留するからなっ!!」と、こっぴどく叱られた。


シロネコから降りた英代は関係者席にもどった。
出迎えた夏恵來とニア。
英代はいった。
「すいません……。自分でも何をしたらいいか、もうわからなくなって……。シロネコに潜在する暴力性に身をゆだねてしまいました……」
夏恵來がいった。
「むずかしいこと言わなくていいから……。あれじゃあ、こっちが悪人みたいよ……」
ニアがいった。
「どうやら、相手はこちらに勝たせるつもりはないようですね」
「くっ、悔しいですっ……!!」英代は涙ぐんだ。
ニアが励ましていった。
「次の競技は綱引きと聞きました。シロネコのパワーを活かせれば充分、逆転できますよ! 〈名誉返上〉しましょう!!」
「……」
「ん、なにか?」
「いえ……」
笑ってはいけない。
ニアはまだ日本に来て日が浅いから日本語に詳しくないのだ。
こうして1回戦につづき、2回戦でも英代・シロネコは敗退。
競技は3回戦の綱引きにつづいた。



第3回戦の競技は〈つな引き〉だ。
ネコミミのアナウンサーがいった。
「いよいよはじまります、3回戦目のつな引きは、ハンデをもちいた団体戦です! 実力が拮抗するだけに熱い戦いが期待できますね!!」
解説者のキャッツが小刻みに震えながらいった。
「そうですね! 2回戦でのシロネコ選手のように……ブフッ! 圧倒的な大差がつくような……ブブフッ! 情けない戦いにはならないと思いますっ! ブブハァッ!!」

選手用の出入り口から、出場するマシンドールがあらわれた。
シロネコは、指定された場所に立った。足元には鋼鉄製のワイヤーを束ねた綱が横たわる。この綱を相手チームと引き合うのだ。
向かい合うのは、大会に出ている全マシンドール。約100体がずらりと並んでいる。
最後尾には、通常の規格より10倍は大きい超巨大マシンドール〈ニャインズ・ニャイン〉がひかえていた。
シロネコ側のチームはシロネコしかいなかった。
コックピットで英代はいった。
「おかしいよね……」
「なにがッ!!」
グラウンドにいる女王は即キレた。言い方が気に食わなかったのだろう。
「チーム戦でしょ。なんでこっちはシロネコだけなの……」
「ハンデ戦と言っただろ。各々のマシンドールの性能差を計算し、公平を期してチーム分けをしたら、このようになったのだ」
「なあにが公平よ。こっちはチームですらない……」
女王は早口で言い返した。
「やってみればわかろうが! さっさと綱を持て! お前のせいで時間が押してるのだ!!」
「こんなの負けたって、逆に悔しくないわ」
英代のシロネコは鋼鉄製の綱を持った。
ふいに、グラウンドがうす暗くなった。
頭上では黒い雲がうずをまきながら広がっていた。
強い風がふいた。スタジアムの観衆の顔がこわばっている。
女王が髪を抑えながらいった。「ちぃっ! 天気が悪くなってきた! さっさと始めるぞっ!!」
シロネコが綱を両腕で抱えた。
――バキィッ! と大きな音がした。
見ると、シロネコの両足がくるぶしまで地面にめり込んでいる。
グラウンドの整備不良だろうか。
「つな引き、はじめ!!」
女王のホイッスルが鳴った。
英代は「まったく、こんなの勝負になるわけが……」
シロネコが綱を引いた。
地の底からひびくような爆発音がした。スタジアムが激しく揺れた。
反対側から綱を引いていた対戦相手のマシンドールたちが爆風にでもあったように舞い上がった。
あるものは大きな弧を描いて宙を舞う。あるものは持っていた綱に引きずられた。
約100体のマシンドールは、折りかさなって団子のようになっていた。
最後尾のニャインズ・ニャインは、綱を放してしまい、盛大な尻もちをついた。
マシンドールでグラウンドに立っていられたものはシロネコだけだった。
シロネコは垂れた綱を掲げた。綱には、ところどころに機械の腕や手がついていた。

スタンド下の関係者席。
英代のおじが撮ったビデオを見ていた夏恵來が声をあげた。
「ニアさん! 何ですか、アレは!?」
「うーん……」
シロネコの開発者であるニアは困ったようにこたえた。「シロネコの機関部にあたる月光ドライブには、いまだにわかっていない部分が多いのです。永遠のテスト機体などと言われるゆえんです」
「それにしても異常でしょ。あの力……」
「おそらく……」ニアはあごの下に手を当てながらいった。「いや、推測はよしましょう」
夏恵來はいぶかしがっていった。「変なものじゃないでしょうね……」
「もちろん、パイロットの安全は最優先にしています」

女王は、約100体のマシンドールが折り重なって倒れているさまに目を見開いた。
スタジアム中がざわめきはじめた。
女王がマイクを手にいった。
「山本英代、ちょっといいか……」
コックピットの英代はこたえた。
「な、なに?」
「いいから、ちょっと……」
英代はコックピットから降りて女王と向き合った。
女王は言いにくそうにいった。
「ちょっと、ハンデの計算を間違えてしまったようだ」
「まあ、そうみたいね……」
「ついては、もう1度計算し直したうえで、やり直したいのだが……」
「つな引きを?」
「そうだ」
「それはいいけど……」
英代は対戦相手のマシンドールの山を見た。「マシンドールはどうするの? 大会に出ている機体はもうないんでしょ」
「そ、そうだな……」
思案する女王。
英代はつづけた。
「マシンドールの競技は性能差で勝敗が決まるから、同じ条件でやっても同じ結果にしかならないんでしょ? どうするの」
「わ、わかっている! 選手を追加させてもらおう。ニャインズ・ニャインをもう1機ほど……」
通常規格の10倍もある超巨大マシンドールをもう1体、追加したいという。何が公平なのか、わからなくなってきた。
「……時間がないんじゃないの。あんな大きなのをすぐに用意できるの?」
家臣が女王の背後からささやいた。
女王はいった。
「あと1ヶ月もあれば用意できる」
「決着は1ヶ月後……?」
「まあ、そうなる」
「1ヶ月もあったら、だれも憶えてないでしょ……」
英代のいうことに女王は考え込んだ。
「う、うーむ……」
「今回はすっきりとシロネコの勝ちってことにしない?」
「待て! えぇと……」女王は考えながらいった。「運動会のようすはメディアで再放送させる! 忘れられることはないはずだ!!」
「運動会の最終結果も1ヶ月後になるんでしょ。今まで、そんな例あるの?」
「今回は特例でそうさせてもらう」
英代はスタジアムの観衆を見わたすといった。
「一応、スタジアムのみんなにも聞いたほうがいいんじゃない?」
「ん、まあ、な……」
英代は女王のマイクを取った。スタジアムを埋め尽くす観衆に向かっていった。
「運動会の勝敗が1ヶ月後になってもいいと思うなら拍手!!」
女王が止めた。「おい! 勝手なことをっ……!!」
数十万人の観衆の中からパチパチとまばらな拍手が聞こえた。
慌てたようすの家臣が、スタンドに向かって手でサインを送った。スタンドの前列に並ぶスタッフがいっせいに腕を振り回す。と、拍手は次第に大きくなり、やがて耳を圧するほどになった。
女王は安堵したようにいった。
「そういうことだ。皆には申し訳ないが、3回戦の決着は1ヶ月後とする」
英代はいった。
「じゃあ、土下座しようか」
「はあっ!? 何を言って……!!」女王はミミをはね上げた。
「再試合するなら土下座が条件でしょ。ちょっと優しすぎるくらいだけど……」
「な、なぜ、私がそんなことをっ!!」
あわてる女王に英代はいった。
「土下座がなければ再試合はしません」
「ふざけるなっ! お前に決める権利があると……!」
「ブリッヂでもいいけど」
「いやだ! あんなことするくらいなら死んだほうがましだッー!!」
《え、私はやったけど……》英代は悲しくなったが、顔には出さずにいった。
「あっそ! じゃあ、再試合は無しねっ! 競技を進めましょう、時間もないしぃっ!!」
『フンガッ!!』
女王の鼻がなった。マイクにのってかなりひびいた。
スタジアムがざわついた。
こうして3回戦のつな引きは、英代・シロネコの勝利となった。

女王はぐったりと特別席に背をあずけた。
家臣は、女王に顔を近づけるといった。
「山本英代、やはり恐ろしい相手です。大衆の前で女王さまをあのように辱めるとは……」
「おのれっ……!!」女王はこぶしを固めた。
「このまま返してはいけません。重傷を負わせ、再起不能とするのです。次の競技は〈空中フェンシング・バトルロワイヤル〉。やつを潰す格好の口実になります」
「うむ……! 精鋭で取りかこみ、確実に潰せっ……!!」


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